『女は冷たい嘘をつく』あらすじ感想:誘拐事件では終わらない社会のひずみ

夫と離婚し、シングルマザーとして必死に会社に食らいついて働いていたジソン。しかしある日、信頼していたベビーシッターが最愛の娘とともに突如姿を消して…。

 

『女は冷たい嘘をつく』はオム・ジウォン、コン・ヒョジン主演の映画。ベビーシッターによる誘拐事件からワーキングマザーへの冷たい風当たりや農村部の国際結婚問題など、韓国社会のひずみを描いた作品です。

 

 

以下、『女は冷たい嘘をつく』のレビューです。



女は冷たい嘘をつく 作品情報

https://movie.naver.com/movie/bi/mi/basic.nhn?code=142625

 

原題 미씽:사라진 여자
(Missing:消えた女)
公開年 2016年
キャスト オム・ジウォン、コン・ヒョジン、キム・ヒウォンほか
上映時間 1時間38分

 

 

女は冷たい嘘をつく あらすじ

芸能関係のライターとして働くジソン(オム・ジウォン)は昼夜問わず仕事に追われている。夫と離婚し1歳になる娘のダウンを育てているが、仕事のためにベビーシッターのハンメ(コン・ヒョジン)に育児のほとんどを任せている状態。

 

ハンメは言葉こそつたないものの、ベビーシッターの仕事をきちんとこなし、誰よりもダウンのことを可愛がっている。ジソンもそんなハンメのことを信頼し、その働きぶりにいつも感謝していた。

 

ダウンを育てるために必死で働きお金を稼いでいるジソンだが、収入の大半はベビーシッター代に消え、養育権をめぐる元夫との争いは非常に分が悪い。

 

そんな中、ダウンとハンメが突然姿を消す。連絡の取れなくなったハンメを追い、手掛かりを探して奔走するジソン。

 

ハンメの足跡を追っていくと、名前も身分証明書もすべてが偽物だと分かり…ハンメの本当の姿とダウンを誘拐した目的とは――?

 

女は冷たい嘘をつく キャスト

イ・ジソン(オム・ジウォン)

芸能関係のライターで新作ドラマなどの記者会見での取材やドラマに関する記事を書いて生計を立てている。医者である夫と離婚して1歳になる娘ダウンを育てているが、親権をめぐって裁判をしており、生活能力が低いとみなされて子供を渡すように迫られている。

 

ハンメ(コン・ヒョジン)

中国人ベビーシッター。韓国語はつたないが意思疎通はでき、ベビーシッターとしての仕事はしっかりとこなしジソンからの信頼も厚い。ダウンのことを可愛がり、ダウンもハンメになついているが、ある日突如ダウンと姿をくらます。

 

ジニョク(コ・ジュン)

ジソンの元夫。医師として江南恩恵病院に勤務している。ダウンを早く引き渡すようにジソンに迫る。

 

ヒョニク(パク・ヘジュン)

ダウンとハンメが姿を消してから自宅周辺に現れるようになった正体不明の男。ハンメの正体を知っているようだが…。

女は冷たい嘘をつく ちょっとネタバレ


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作品のストーリーを途中まであらすじよりも細かく紹介していますので、この先ご注意ください。

 

芸能関係のライターをしているジソン(オム・ジウォン)。会社から帰宅する途中で仕事の電話を受け、家に戻った瞬間から自室に閉じこもりPCを立ち上げて作業をしなければならないほど仕事に追われている。

 

1歳1カ月になる娘のダウンがハイハイで部屋に入ってきても構ってあげられず、子育てはベビーシッターのハンメ(コン・ヒョジン)に任せきりになっている。

 

朝は座って食べることもできず、ジュースで済ますほど時間に追われているジソン。出かける直前にダウンの鼻水が出ているのを見つけ、抱っこしているハンメにティッシュを差し出そうとするが、ハンメは口でダウンの鼻を吸う。

 

「汚い」と驚くジソンだったが、ハンメは「ダウンのは汚くない」と全く気にしていない様子。ジソンは今日大事な会食があって帰りが遅くなることと、ダウンを小児科へ連れて行くようにとハンメに伝える。

 

ハンメは「明日予防雑種があるから」とつたない韓国語で話し、ジソンは「予防接種ね」と言葉を直してあげる。ハンメは中国出身のベビーシッターなのだった。

 

ジソンはカバンの中から今月のお給料と、感謝の気持ちとしてプレゼントをハンメに渡し出勤する。ジソンはハンメの働きぶりを本当に有難く思っている。

 

金曜日、警察からの電話で目を覚ましたジソン。ダウンの親権をめぐって元夫と争っており、裁判所への出廷命令が出ていたにも関わらず、ハンメが郵便物を間違って振り分けておりそれに気が付かないままだったことを知る。

 

ジソンはウォーターサーバーから水を飲み、急いで弁護士に連絡を取って裁判所への出廷をすることに。しかし、ふと家の中を見回してもハンメとダウンが見当たらないことに気が付く。

 

二人の姿はなかったものの、ダイニングテーブル横の家族の予定を書くホワイトボードに“クマちゃん小児科”という行き先が書いてあるのが目に入る。二人の行き先が分かり安心したジソンは綴りの間違いを正してあげ、そのまま出かける。

 

裁判所ではベビーシッター代に収入の半分以上が消え、生活を維持していく経済状況ではないこと、精神的に不安定で受診を勧められたことなどダウンの親権をめぐってジソンに不利な状況であることが分かる。

 

その間も会社からの電話がかかってきており、応答拒否を連打するジソン。

 

ジソンの弁護士が反論しようとしたところで、感情の高ぶったジソンが自ら話し出してしまい、裁判長から「これ以上の反論は書面で」とその場を切り上げられてしまう。

 

ジソンの弁護士もあきれて「ご自身で弁護されては?このままでは養育権を奪われますよ」と冷ややかな様子。とにかく今は頭を下げて元夫に監置執行通知を取り下げてもらうしかないと伝える。

 

急いで今日の仕事の現場に戻ると、社長は大事な新ドラマの記者会見の日に連絡が取れず遅れてきたことに怒りをあらわにする。二度とないように気を付けると謝罪するジソン。

 

仕事が終わるとタクシーに乗り、ある場所へと向かうジソン。車中でハンメに今日は遅くなるから先に寝ていてとメッセージを送る。

 

過去回想シーン。
夜間の救急病院。不安げにジソンがダウンを抱いている。ベッドが空き、ダウンを寝かせるジソン。夫であり医師のジニョクが「熱は下がったから大丈夫だ」と声を掛けてくれるが、かかってきた電話越しの女性の声でジニョクが不倫をしていることが分かる。

 

現在のシーン。ジソンが向かったのはジニョクの勤務する病院だった。監置執行通知を取り下げてもらうように頼むジソンに対し、ジニョクは冷たく「名ばかりの母親だろ。いつも一緒にいるのはベビーシッターだ」と冷たくあしらい、明日自分の母親がダウンを迎えに行くから大人しく渡せと告げる。

 

家に戻れば今日の新ドラマをチェックしなければならず、息つく暇もない。フラフラになりながらもウォーターサーバーへ行き、水を一杯飲み干すジソン。テーブルにカップを置くと、今日自分が使ったカップがそのままテーブルにあることに気が付く。

 

ダウンとハンメが家に帰ってきていないことを知り部屋中を探すも、ダウンとハンメは見つからない。ハンメに電話をかけるがつながらず、あわてて家の周りを探し始めるジソン。

 

娘とベビーシッターはどこへ消えたのか?そして二人が失踪してからあやしげに家の周辺をうろつく男が現れ始める。

 

ジソンは警察に駆け込むも娘の養育権を渡したくないが為の狂言と取り合ってもらえず、一人で二人の行方を探すことに。手掛かりを辿っていくにつれ、ハンメという名前も証明書である外国人登録証も偽物だということが分かり…。

 

ハンメの本当の正体と娘ダウンを連れ去った目的とは一体何なのか?ダウンは果たして生きているのか――?

 

女は冷たい嘘をつく 見どころと感想

この作品の見どころはベビーシッターの子供誘拐というセンセーショナルな事件を通じて韓国社会がはらんだ問題点を描き出しているところだと思います。

・農村部の国際結婚問題
・ワーキングマザーに対しての無理解

 

韓国では1990年代以降、人口不足に悩む農村部へ外国からの女性を積極的に受け入れる政策をすすめ、2013年には韓国に居住する在留外国人が150万人を超えたとのこと。人口の3%以上が外国人で今後その比率はどんどんと増えていく展望だそう。

ただ、外国から受け入れた女性に対しての家庭内暴力の問題や、韓国文化への適応の難しさから離婚へ至るケースも少なからずあり、社会的な問題となっているそうです。

 

この作品でも中盤以降、コン・ヒョジン演じるハンメは朝鮮族出身の女性で中国から韓国の農村に嫁いだことが分かってきます。しかし、韓国語を話すことができず家族からは虐げられ、勉強の機会すら「知恵がついて逃げたら困る」という理由で与えてもらえません。

 

それを抜け出す“あるきっかけ”がありましたが、それが結果的にハンメの人生を狂わせることになります。身寄りもなく、言葉も分からず逃げ場のない外国の地での苦しみ、苦悩が痛いほど伝わってくる描写は目をそむけたくなるほど。

 

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一方、ソウルの都市部に住み、皆が羨むような華やかな仕事に就いてベビーシッターまで雇えるジソンが幸せなのかというと全くそうではなくて、何とか会社に食らいついて仕事をもらい、時間を問わず必死に働いていても

「子供が病気だって?これだから子持ちと働くのは嫌なんだ」
「給料を払った上に家庭の事情まで考えなきゃならない」

などの心無い言葉を会社の上司から投げかけられます。確かに仕事に穴をあけたのはジソンで悪いのは全て自分だということがわかっているものの、そこへ型へはめたように「これだから子持ちは」と責められる理不尽さにもやるせなさを感じてしまいます。

 

映画なのでここまで露骨であからさまな表現をしているのだと思いたいですが、子供を育てながら働くことへの理解がまだ進んでいない現状があることがわかります。

 

信頼していたベビーシッターの隠された裏の顔が徐々に明らかになっていくというミステリー要素がありながらも、社会問題を提起するような描写が多く、子供の誘拐事件では終わらない、鑑賞後も考えさせられる作品でした。

 

『女は冷たい嘘をつく』はHuluで視聴可能です。